福井大学 工学部・工学研究科>物質・生命化学科>化学工学研究室

化学工学研究室

化学工学研究室のHPへ

関連講義の情報はこちら

研究室メンバー(2021年4月現在)

教職員 飛田英孝 教授鈴木 清 准教授
学生・研究生 博士前期課程1名,学部4年生8名

飛田教員紹介リンク: 紹介ビデオ 論文リスト 優秀教員コメント 週刊広報センター(2010-2012)

研究内容

複雑な重合反応のモデル化とシミュレーション

数式を楽しむのも科学の醍醐味です。
(画面をクリックすると図が大きくなります。)

 化学製品の製造には、合成・構造・物性のつながりを知る必要があります。当研究室では、高分子の合成方法と生成する高分子構造との関係の解明に取 り組んでいます。科学研究では、モノやシステムをつくり出す仕事が注目されがちですが、当研究室では「新しい見方で今までの世界観がガラッとかわる研究」 を目指しています。ものごとの「本質」を理解したとき、目の前の世界が変わって見える「目からウロコ体験」をすることができます。
 人間の脳は複 雑な現象を複雑なまま理解することは得意ではありません。複雑な現象の支配的な部分を抽出したものがモデルです。人は、モデルを通じて世界を理解する生き 物です。そして、そのモデルを厳密に具現化できるツールが数学。感覚的理解から定量的理解へ。当研究室では、実験・モデル化・シミュレーションを通じて複 雑な高分子の生成過程を解明しています。

高分子生成過程の「新しい見方」(1)均相系における重合

ラジカル重合で生成する分岐高分子の場合、比較的短い分岐鎖が多数生成し、平均的には分岐鎖の方が主鎖よりも短い傾向があります。

架橋(分岐)密度分布
 架橋・分岐構造の生成過程をモデル化し、均質な架橋(分岐)構造を作ることの方がむしろ難しいことを明らかにしました。
サンプル抽出法
 化学では1モルつまり、1023個もの分子の挙動を取り扱います。従来のモンテカルロ法では、有限空間を対象とし、取り 扱う分子数を少数に限定したのに対し、私たちは反応空間を無限とし、サンプルとして取り出す高分子数を有限にすることにより反応を計算機にてシミュレー ションするサンプル抽出法を開発しました。
 右の図はサンプル抽出法でシミュレーションした分岐高分子の構造例です。シミュレーションでは個々の高分子構造を直接観察することができます。
擬反応速度定数法
 2成分以上のモノマーを重合する際の重合速度論が「擬反応速度定数」を適切に定義することにより、単独重合とまったく同様に扱えることを示しました。

高分子生成過程の「新しい見方」(2)乳化分散系における重合

乳化重合の直接シミュレーション
 たとえ100mlのビーカーでもその中に存在する分子数は実質的に無限大。一方、乳化重合のように直径100nm程度以下の微小液滴内にて重合反応を行う場合、その中に存在する分子数は、106個程度以下。その程度の分子数ならば、計算方法をちょっと工夫すれば分子の挙動を直接シミュレーションすることができます。「コロンブスの卵」のようなお話しですが、当研究室が世界に先駆けて提案した方法です。

ミニエマルション重合における制御/リビングラジカル重合速度(srmp, atrpの場合)の計算結果。液滴径dpを変化させた場合の重合速度(均相系に対する速度比)を示しています。「1分子濃度効果」と「統計的濃度揺らぎ効果」により、均相系での場合に比べ重合速度が大きくなる液滴径範囲(図中のacceleration window)を容易に予測することができます。

微小体積効果
 乳化重合のように微小液滴内部を重合反応の場とする反応では、反応の場が小さいことによる特異的挙動を示します。私たちは次の3つの点が特に重 要であることを見いだしました。(1)分岐・架橋高分子では、最大限形成し得る高分子のサイズが制約され、2峰性の分子量分布が形成されることがありま す。(2)1分子の占める濃度が高くなります。これは、大都会での一人と小さな村での一人の存在感の違いを考えれば容易に理解できるでしょう。このことに より、微小反応場では重合速度が均相系に比べ速くなったり、遅くなったりします。(3)反応場に存在する成分分子数が数個程度以下になると、液滴間の濃度 揺らぎの影響が大きくなります。全部で数百個ある系で2個程度の差異があって も影響は無視できますが、平均的に3個程度しかない系で2個の差異があれば、大きな違いですよね。従来の乳化重合理論では、そのような成分濃度の統計的揺 らぎは無視されてきましたが、揺らぎ効果が無視できない場合を次々と発見しています。

微粒子分散系ラジカル重合の機構解明とそれを利用した比較的大きさの揃ったナノメートルサイズの高分子微粒子の調製

 高分子の微粒子およびそれを生成する重合反応は、塗料・接着剤の製造や、プラスチックやゴムの大量生産、液晶ディスプレーのスペーサーや診断薬、 太陽電池のパネルへの利用など幅広く使われています。その品質を高めるための方法の一つは、微粒子の直径を目的の値にコントロールすることです。高分子の 種類などにもよりますが、大きさが50nm程度以下で、大きさが比較的揃った高分子の微粒子を合成することは容易ではありません。我々は、これまでに培っ てきた重合の機構に関する知見を利用し、微粒子への原料物質などの拡散も検討することにより、大きさが50nm程度以下で、大きさが比較的揃った高分子微 粒子を調製しようと検討しています。ビニルモノマーだけではなく、ジメチルシロキサンをモノマーとする重合の検討も行っています。

反応熱の可視化~熱量計を用いた重合反応速度等の詳細検討

 反応を適切に制御して望ましい製品を得るためには、反応の進行状況を知る必要があります。そのための一つの方法は反応中に反応物の一部を採取し て、それを分析することですが、採取することで状況が変化する場合もあります。そのような場合に、採取せず、反応に伴って発生する熱量を測定することで、 反応中に反応の進行具合を時々刻々連続的に測定することが可能です。当研究室では、これまでにこのような熱量測定装置を高精度にして、既に企業と共同で特 許も取得しています。我々はこのような方法を乳化重合などの微粒子分散系での重合に適用し、停止反応速度定数に関する新たな知見を得ようとしています。

ページの先頭へ

Copyright©福井大学大学院工学研究科 材料開発工学専攻 All right reserved.