高分子化学研究室
研究室メンバー(平成24年4月現在)
瀬 和則 准教授 | |
博士前期課程2名,学部4年生4名 |
研究内容
新規なポリマーアロイ(注1参照)の創製を目指して,分子設計(注2参照)という研究手法を用いて研究を進めています。そのため,私達の研究室は「高分子合成グループ」と「高分子物性グループ」の2つの部門から成り立っています。
(1)高分子合成グループ
リビングアニオン重合により,図に示すような様々な非線状ブロック共重合体を合成して,その構造と物性の関係を解明しています。近年は特に,末端重合性高分子(マクロモノマー)の単独リビングアニオン重合法を世界に先駆けて開拓して,星型ブロック共重合体や分岐高分子を精密に合成しています。最近の研究テーマは下記の通りです。
- 非線状ブロック共重合体の精密合成法の開発と得られた試料のミクロ相分離構造の解明
- マクロモノマー(末端重合性高分子)のリビングアニオン重合法によるヘテロ星型ブロック共重合体の合成
- 新規な分解性棒状高分子を一成分に有するグラフト共重合体の合成
- オール・オア・ナッシング型の分解性高分子の創製とそれを用いたナノ材料の創製
(2)高分子物性グループ
分子量や分子量分布や組成分布が狭いブロック共重合体を用いて,図に示す様な様々な測定器機を組み合わせて,希薄溶液や濃厚溶液や溶融体や固体の性質までの幅広い状態における物理的性質を解明しています。又,新規な高分子ブレンドを作製して特異な電気的性質や力学的性質やレオロジー挙動や光学的性質を解明しています。最近の研究テーマは下記の通りです。
- 非線状ブロック共重合体の絶対分子特性化:GPC-LALLSや膜浸透圧法や光散乱による高分子孤立鎖の構造解明
- 新規な高分子ブレンドの作製:相溶性に及ぼす圧力効果やずり効果や相溶化剤効果
- ポリマーアロイの電気物性:誘電緩和挙動による分子運動論の解明と圧電材料の創製
- ポリマーアロイの光−レオロジー挙動:高分子ブレンドの流動誘起相溶性の解明と成形加工
(3)研究テーマと社会との関係
研究テーマと社会との関係について下記の表を参考にして下さい。例えば,「@リビングアニオン重合による合成」の研究テーマは,私達の業界(?)では「ガラス細工屋」と呼ばれていまして,図に示しているような星型ブロック共重合体を「30年前に合成していればノーベル賞を受賞」できていたかもしれません。もちろん,今ではそれの受賞は無理ですが,「最近は」人工心臓の様な抗血栓性材料への応用が試行されており,卒業後の代表的な「勤務先」はプラスチック製造会社等です。以下の研究テーマA〜Dも,この様に想像を働かせて読み取って下さい。
研究室の特色とメッセージ
私達の研究室では新規なポリマーアロイ(注1参照)の創製を目指して,分子設計(注2参照)という研究手法を用いて研究を進めています。(1)ポリマーアロイ(注1)とは何でしょうか?
ポリスチレンのような一成分からなる合成高分子をホモポリマーと呼びますが,ホモポリマーの数は限られていますので,様々な分野で要求されている「特別な性質や使用法」をホモポリマーだけで満たすことができません。そこで2つ以上の高分子を化学結合でつないだブロック共重合体や2つ以上の高分子を混ぜ合わせた高分子ブレンドが新素材開発の中心になっています。この様なブロック共重合体や高分子ブレンドのことを,近年はポリマーアロイ(高分子合金)と呼ぶように成り,ボトムアップ型のナノ材料の一翼を占めています。私達の研究室では ,(1) 新しいポリマーアロイを合成して,(2)それらが形成する高次凝集構造体(ミクロ相分離構造(注3参照))を解明して,(3)それらの構造に由来する物性を解明しています。ポリマーアロイの観点から私達の研究内容を下表の様にまとめました。
(2)ミクロ相分離構造(注3)とは何でしょうか?
図に示す様に,ポリスチレンとポリイソプレンが共有結合でつながっている高分子をブロック共重合体と言います。それぞれの高分子はお互いに混ざり合わないので相分離しますが,化学結合でつながっているのでマクロ(巨視的)相分離は生じなくて,ミクロ(微視的)相分離が生じます。その結果,“すごろく”モデルの様な様々な凝集構造を形成します。ブロック共重合体が形成するこれらの凝集構造をミクロ相分離構造と呼び,それらの大きさが分子レベルの大きさに対応していますので,ミクロ相分離構造を応用してボトム・アップ型ナノ材料の作製が期待されています。
(3)分子設計(注2)とは何でしょうか?
新規なポリマーアロイを作製するには,(1)自ら合成して,(2)得られた試料の高次構造を解析して,(3)構造に由来する物性を評価します。得られた機能や物性の結果を合成へフィードバックして,合成→構造→物性を繰り返えすことにより,新素材を創製します。図に示す様に,この様な研究手法を「分子設計」と呼び,ポリマーアロイを研究する際の研究指針です。3つの研究分野を一人で研究するので忙しそうに見えますが,全ての情報が研究者である一人に集約されますので,「分子設計」は新素材を効率的に開拓するための最良の方法なのです。
(4)最近の共同研究テーマは何でしょうか?
私達の研究室が行った「国や企業との最近の共同研究の例」を下記に示します。
- 「オール・オア・ナッシング型の高分子選択分解反応を用いた高分子材料の創製」,文部科学省,科学研究費 挑戦的萌芽研究,研究代表者:瀬 和則,2012年-2014年,420万円。
- 「ポリマーアロイの絶対分子特性値を簡便に測定できるシステムの開発」,(独)科学技術振興機構 シーズ発掘試験研究,研究代表者:瀬 和則,2009年,200万円。
- 「ゴム材料の最大弱点である酸化劣化の克服とゴム材料の新展開」,(独)科学技術振興機構 シーズ発掘試験研究,研究代表者:瀬 和則,2007年,200万円。
- 「光刺激に伴う異常な巨視的変形(メカノオプティカル)の応用と制御に関する研究」,文部科学省,科学研究費 一般研究(B),研究代表者:瀬 和則,1995年-1996年,470万円。
- 「新規な強誘電性高分子材料の作成とそれを用いた圧電材料の構築」,村田学術振興財団,研究代表者:瀬 和則,1995年,150万円。
- 「ポリイソプレンを一成分とする新規なブレンド材料の精密合成とそれを用いた高性能圧電材料の作成」,北陸産業活性化センター,研究代表者:瀬 和則,1995年,150万円。
- 「ポリマーアロイを用いた超高容量光記憶材料の開発とその基礎研究」,関西エネルギー・リサイクル科学研究振興財団,研究代表者:瀬 和則,1994年,180万円。
- 「新規なアニオン重合法の開発とポリマーアロイ(高分子多相系材料)の精密制御に関する研究」,日本証券奨学財団研究助成金,研究代表者:瀬 和則,1993年,95万円。
- 「光応答性高分子の合成と光記憶材料の製作」,実吉奨学会,研究代表者:瀬 和則,1993年,50万円。
- 「標準4本腕星型高分子の精密多量合成法の開発と物性研究者への標準試料提供」,文部科学省,科学研究費 一般研究(B),研究代表者:瀬 和則,1992-1993年,450万円。
- 「マクロモノマーの平衡アニオン重合による4本腕の星型高分子の合成とその分子特性化」,チバ・ガイギー研究奨励金,研究代表者:瀬 和則,1992-1993年,200万円。
- 「末端重合成官能基を持つ高分子の新規な単独重合法の開発と応用研究」,文部科学省,科学研究費 一般研究(C),研究代表者:瀬 和則,1992年,330万円。
- 「高圧印加法による新規な高分子ブレンド材料の構築に関する基礎研究」,池谷科学研究振興財団,研究代表者:瀬 和則,1990-1992年,300万円。
(5)私達の研究室を卒業すると修得できる能力は何でしょうか?
学生諸君は研究を通して,図に示す様な様々な研究能力を修得して,“スーパーマン科学者”に成ります。特に,私達の研究室では高分子合成と高分子物性という異なる二つの専門分野から新素材開発の研究を行っていますので,A二つ以上の専門分野を持つ人と,B実験技術が高い人,の育成に力を入れています。